古賀 絵里子先生
1980年福岡市生まれ。上智大学フランス文学科卒業。フリーランスの写真家として活動。著書に『浅草善哉』(青幻舎)、『一山』(赤々舎)、『TRYADHVAN』(赤々舎)などがある。京都市在住。
京都の紅葉と若沖
赤や黄色に彩られた京都はそれだけでも十分にフォトジェニックだが、せっかくなら、ただやみくもにシャッターを切るのではなく、何かテーマのある旅をしたい。そういえば、2016年は京都出身の画家・伊藤若沖の生誕300年。彼の足跡を辿るように歩いていけば、きっと、いつもとは違った京都の表情と出会えるはずだ。
伊藤若沖
京都の錦市場にあった青物問屋「枡屋」の跡取りとして生まれ家業を継ぐが、40歳で家督を弟に譲り、後の85歳で生涯を閉じるまで絵描きとして生きた伊藤若沖。執拗なまでの緻密さで描かれた動植物と独特の構図は「奇想の画家」と称され、海外からもシュールレアリズム=超現実主義の秀作としていまなお高い評価を得ている。若沖に造形が深い京都造形芸術大学教授の椿 昇さんによれば、その作品の根底にあるのは「科学者としての眼」であるという。若沖が生きた江戸時代中期には、日本の自然科学もずいぶんと発達していた。当時は博物学、あるいは本草学といい、それらへの関心に起因した自然の徹底的な観察、模写が、圧倒的なリアリティーに通じているのだ。若沖の代表的な画題のひとつは鶏であったが、実際に自分でも数十羽を飼っていたのだそう。建仁寺の塔頭、両足院に所蔵されている掛け軸「雪梅雄鶏図」を見れば、まるで対象の生気やそのまわりを包む空気までも作品に込めているような切実さが伝わってくるだろう。今年で生誕から300年。彼が目にしたであろう景色が、歩いたであろう道が、この古都には待っている。
建仁寺
どこか浮き足立つ秋の京都だからこそ、最初の一歩は心静かに踏み出したい。ここ建仁寺は京都最古の禅寺で、四方正面の禅庭「潮音庭」などの木々が美しく色づく紅葉の名所としても知られる。差し込む朝日に浮かび上がる錦色と対照的な苔の青々しさを表現するため、ピクチャースタイルは「風景」を選択。ISOを低く設定し、景色の美しさを最大限に引き出した。
錦市場(1)
若沖が描く絵画のなかには、蕪や大根、蓮根、茄子、南瓜といった野菜、さらには石榴、蜜柑、桃といった果物などがたびたび登場する。近年、新たに発見された史料では、家督を譲ったあとも錦市場の営業認可をめぐる調整活動に積極的だったことが明らかになっており、この場所で生まれ、育ったことが、彼のなかに深く根を張っていたであろうことがうかがえる。
錦市場(2)
幅3.3~5mの狭い道沿いに、120を超える店舗が軒を連ねる「京の台所」が錦市場。400年という長い歴史を誇り、京都のあらゆる食文化が集まっている。さまざまな人が行き交う雑踏のなか、ふと目にとまったのは着物姿でおばんざいを買い求める若いカップル。シャッタースピードを遅くして歩行者の動きを出し、その微笑ましい様子を市場の活気とともに切り取った。
尾張屋本店(1)
1465(寛正6)年に菓子司として創業し、次第にそば処としても京の町衆に親しまれるようになった老舗。その味わいが広く知られるにつれ、由緒ある寺院や宮家からの注文が増え、江戸時代には御用蕎麦司として宮中に召し上げられることもあった。流れゆく時代に合わせて味の工夫をしながらも、いまなお、その暖簾とともに育まれた技と心を受け継いでいる。
尾張屋本店(2)
京都の歴史を感じながら歩くなら、食にもこだわりたい。これは京漆器の象彦製わりごに盛り分けた名物「宝来そば」。一椀ごとに異なる薬味でいただけば、同じそばでもまったく違った味わいを感じられる。紅葉、若沖、写真、……そんなふうに薬味を追加するだけで、誰もが知っている町のなかから自分だけの町が浮かび上がってくるのは、旅も同じなのかもしれない。
宝蔵寺(1)
若沖および伊藤家の菩提寺。若沖は1751(寛永4)年に父母の墓石を、1765(明和2)年の末弟である宗寂の墓石を建立しており、お参りすることもできる。またこうした縁から、一般公開はされていないものの、若沖筆の「髑髏図」や「竹に雄鶏図」といった作品を所蔵。過去と現在が交差する寺院の門前を、独特の味わいがあるシーンモード「トイカメラ」にて撮影した。
宝蔵寺(2)
午前中に宝蔵寺を訪れると、お寺に行列ができているという一風変わった光景が見られることがある。これは、若沖の作品が表紙となっている数量限定の御朱印帳と「髑髏図」をモチーフにした御朱印を求める人々。恐ろしさや禍々しさより、どこか、亡くなってしまった者を弔いたいという思いが伝わってくるその髑髏には、光と影のやわらかに揺れる場所がよく似合う。
香老舗 松栄堂
1705(宝永2)年の創業から香づくりを続けてきた老舗。直接火をつけるスティックタイプや常温で香る匂い袋、間接的に熱を加える香木など、カジュアルなものから専門的なものまでが並ぶ。ハードルが高いイメージのあるお香だが、初心者にも丁寧に説明してくれるので、旅の終わりに立ち寄ってみよう。京の香りを連れて帰るなんて、お土産としても気が利いている。
あまり堅苦しい計画は立てず、秋風に吹かれるように、若沖の足跡に導かれるように、秋の京都を転々と巡っていく。こんな旅には、一緒に歩く相棒も、気ままに付き合ってくれるやつがいい。今回の旅で使用したカメラは、キヤノンのプレミアムコンパクトデジタルカメラ「PowerShot G7 X Mark Ⅱ」。女性でも片手で楽に扱えるサイズ感で、市場の雑踏のなかでも、ふと立ち寄ったお店でも、スマートに取り出して思い出を記録しておくことができる。「ポートレート」や「モノクロ」などのピクチャースタイルを使えば簡単にワンランク上の写真が撮れるし、「魚眼風」、「トイカメラ風」といったスペシャルシーンモードで遊び心を出してみるのも面白い。もちろん、本格的なマニュアル撮影も可能だ。生涯を賭して、圧倒的なリアリティーを持った絵を描き続けた若沖が、もし、現代を生きていたのなら、こんなカメラを片手に京の都を歩いていたのかもしれない。
古賀 絵里子先生
1980年福岡市生まれ。上智大学フランス文学科卒業。フリーランスの写真家として活動。著書に『浅草善哉』(青幻舎)、『一山』(赤々舎)、『TRYADHVAN』(赤々舎)などがある。京都市在住。
椿 昇先生
1953年京都府生まれ。京都市立芸術大学で洋画を専攻。現代美術作家として活動を続け、2005年より京都造形芸術大学教授に就任。
Canon PowerShot G7 X MarkⅡ
コンパクトなボディに高画質で鮮鋭な描写力を発揮する1.0型センサー、映像エンジンDIGIC 7、広角から望遠まで全域で明るいレンズを搭載したキヤノンのプレミアムコンパクトデジタルカメラ。