HOTEL

《松之山温泉 酒の宿 玉城屋》
里山×フレンチで海・山の幸を味わう

2022.6.18
《松之山温泉 酒の宿 玉城屋》<br><small>里山×フレンチで海・山の幸を味わう</small>

名湯・松之山温泉街で、全国の美食家から注目を集める「酒の宿 玉城屋」。若き4代目によって美酒と美食の宿に刷新され、ミシュランガイドで一つ星も獲得。芸術祭とともに旅の目的にしたい。

新潟食材のフレンチと
地酒のマリアージュを

山深い温泉宿で、これほど洗練されたフレンチと美酒が味わえるとは──。松之山温泉「酒の宿 玉城屋」は明治 44年創業の老舗旅館だが、4代目・山岸裕一さんが、新潟の酒と食に特化した宿として2018年にリニューアル。ミシュラン二つ星のフレンチ「リューズ」などで腕を磨いた栗山昭シェフのフレンチと、ソムリエで酒匠(唎酒師の上位資格)の山岸さんが選ぶ酒のペアリングは驚くほどの完成度だ。

大学から地元を離れていた山岸さんが宿を継いだのは2016年。板前修業経験もあり、以前は自ら調理も手掛けていたが、現在は接客と経営に集中。「第5回世界唎酒師コンクール」で世界7人のファイナリストにもなった山岸さんだけに、フレンチと日本酒のペアリングを独自の強みとする。地元限定酒を中心に約100種の地酒を揃えるほか、苗場酒造と提携し自ら開発に携わった「kamosu mori」などのオリジナル酒や、お茶やハーブを漬け込んだアレンジ酒も登場する。日本酒のみならず、近年注目の新潟ワインも豊富なラインアップ。まさに「酒の宿」の名にふさわしい充実ぶりだ。

ソムリエで酒匠の山岸さんが、コース料理に合わせて地酒をペアリング。日本酒かワインのコースが選択でき、リピーターや希望者には和洋の酒を織り交ぜたペアリングもできる

若き当主とシェフの奮闘する姿にも感動

「玉城屋」を食の面で担うのが料理長の栗山さんだ。修業していた「リューズ」のシェフ・飯塚隆太さんが十日町出身という縁でここを紹介され、移住を決意。出身地の東京で店をもつ選択肢もあったが、「自分の料理の方向性が定まらなくて。でもここならコンセプトは自ずと定まる。世界中から食材が集まる東京とは異なり、ここで手に入るのは地元食材だけですから」と栗山さん。美しい水で育ち、風味も濃い雪国の食材。その短い旬を逃すまいと、自ら柏崎漁港や道の駅へ赴き食材を調達。山に入り山菜や果実を収穫することも。「昨年狩猟免許も取得済みです」と笑うが、新しい地で食材調達から孤軍奮闘する努力は並大抵ではない。料理もパンも、すべて一人でつくる。だからこそ、その料理は紛れもなく彼独自の“里山キュイジーヌ”といえる。

一方、山岸さんは全8室の客室の居心地を高めることにも注力。すでに一部を現代的に改装し、アートをテーマとした客室も3部屋設けた。「大地の芸術祭は、私がここを継ぐきっかけでもあります」と山岸さん。宿を継ぐ前には大手企業の財務で活躍し、一時はそのまま東京や海外で働くことも考えた。そんな中「大地の芸術祭」を訪れ、松之山の廃校作品を鑑賞。「地元の小学校が廃校になった姿が衝撃で。過疎の状況を目の当たりにし、“地元を元気にしよう”と実感しました」。「玉城屋」の改革に加え、2018年にはカジュアルな姉妹宿「バル&ホステル 醸す森」もオープン。今夏には「玉城屋」近くにスイーツと酒の店を開く予定だ。「酒を軸に松之山温泉を盛り上げたい」と意気込む山岸さん。この宿では、変わりゆく温泉街の前向きなエネルギーも感じられるだろう。

酒の宿ならではのペアリングフルコース

アカイカ×フェルミエ アルバリーニョ2021
軽くソテーした軟らかなアカイカと金柑を新タマネギとアイオリソースで。ワインのきれいな酸と華やかな柑橘のニュアンスが好相性
アミューズ×ぽん茶スパークリング
(醸す森純米吟醸 ほうじ茶+ハイビスカス+炭酸)

美雪ますや、越の鶏レバーと十日町キウイ、ズワイガニをフィンガーフードに。日本酒にほうじ茶の香りとハイビスカスの酸味を加えた爽やかな一杯
真鯛×松乃井 純米大吟醸 有機栽培 越淡麗
柏崎で仕入れた真鯛の昆布〆に雪のようなカブのムースを添えたひと皿。その繊細な味わいを、地元産酒米で醸した酒のすっきり上品な旨みが優しく後押しする
つづばちめ×真野鶴 純米大吟醸 辛口生一本
上品な白身の地魚を、ふっくら香ばしく焼いた一皿。菜の花ピューレと貝出汁のクリームソースのコクに、ふくよかな旨みとほっこり感のある酒が寄り添う
妻有ポーク「越乃紅」×スキー正宗
赤ワイン樽熟成 2021 酒の宿玉城屋別注

地元ブランド豚を低温で2時間ロースト。合わせたのは、5種の日本酒をブレンドし赤ワイン樽で熟成した特注酒。樽由来の香りとタンニンが肉の旨みと調和する
雪下人参×髙千代
純米大吟醸 山田錦 うすにごり生原酒

驚くほど甘い雪下人参のムースの下には甘海老とふきのとうを。新潟限定流通生原酒のフレッシュで凝縮した旨みが、ニンジンとふきのとうの複雑な香りを引き上げる
メバル×カーブドッチ
やまどり 飛ぶ(ラブルスカ)2019

軽やかなメバルのベニエをスパイスが香るスープドポワソンと。食用ブドウの旨み豊かなロゼを選んだのは、ブイヤベースとロゼの定番ペアリングがヒントに
アカシアの蜂蜜×あべ FOMALHAUT2021+雪国紅茶
ハチミツアイスとレモンソルベ、文旦とカスタードのデザート。「冨士美園」の紅茶を漬け込んだ濃醇甘口の貴醸酒と味わえば、蜂蜜レモンティーのよう!

宿泊は一室ごとに異なる
アートに囲まれた部屋へ

“アートとお酒”がテーマの客室「椿」
客室でも酒が楽しめるよう広々とした間取り。里山の風景を絵画のように切り取るよう、窓はあえて小さめに

十日町在住の染色アーティスト・滝沢梢さんの作品が彩る
日本酒の升を重ねたベッド脇の特注照明

5種類のジュースからはじまる朝食
地元産野菜や果物のジュースや甘酒など5種の飲み物でのどが潤う。美雪ますや山菜、唐芋など季節の食材を、いしざか農園の魚沼産コシヒカリとともに

酒の宿 玉城屋
住所|新潟県十日町市松之山湯本13
Tel|025-596-2057 
客室数|8室
料金|1泊2食付2万4200円~(税・サ込、入湯税別)
カード|AMEX、Master、VISAなど
IN|15:00 
OUT|10:00
夕食|フレンチ(ダイニング)
朝食|和食(ダイニング)
アクセス|電車/北越急行まつだい駅からバスで約25分
車/関越自動車道塩沢石打ICから約45分、六日町ICから約60分
施設|露天風呂、大浴場、ダイニングルーム
Wi-Fi|あり
www.tamakiya.com

text: Miyo Yoshinaga photo: Yuko Chiba
Discover Japan 2022年6月号「アートでめぐる里山。/新潟・越後妻有”大地の芸術祭”をまるごと楽しむ!」

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