FOOD

総料理長一人でもてなすレストラン「ベルス」
犬養裕美子さんの新・レストラン名鑑

2019.12.29
総料理長一人でもてなすレストラン「ベルス」<br class=“none” />犬養裕美子さんの新・レストラン名鑑
「グリンピース/スカンポ/胡瓜」
春先の緑の野菜を集めた。グリンピースの甘みやスカンポの香り、キュウリのみずみずしさなど、さまざまな個性が組み合わさって、味に変化を与える。3つぐらいの素材で味のバランスを取ることが多いという典型的なひと皿。温かいソースにからめたキュウリがアクセント

どんな小さな店でも、どんな辺鄙な場所でも、「ホンモノ」であれば、必ず人は引き寄せられる。レストランジャーナリスト・犬養裕美子さんの《新・ニッポンのレストラン名鑑》。第6回は若手実力派シェフが一人でもてなすレストラン「ベルス」を紹介する。

いぬかい・ゆみこ
東京を中心に世界のレストラン事情を最前線で取材する。新しい店はもちろん、実力派シェフたちの世界での活躍もレポート。また、日本国内各地にアンテナを張り、料理や食文化を取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員。

パリの星付きレストランの
シェフから箱根の大自然へ

ジャズが流れる店内。3組以上は要相談

2013年7月、金山康弘氏が「ハイアット・リージェンシー箱根リゾート&スパ」の総料理長に就任したときは驚いた。金山氏はパリで活躍する日本人シェフの中でもトップクラスの実力派。ホテルや人気レストランのシェフを歴任してきた彼がどんな道を選ぶのか、周りは興味津々だった。

実は’13年2月、私もパリに滞在していた。若手料理人たちの飲み会で金山氏に会う機会があったのだが、三ツ星での経験やシェフとしての活躍を含む11年のキャリアは若い料理人の憧れと尊敬を集めていた。その氏が選んだのが箱根。それもリゾートホテルの料理長という道だった。

選択の大きな理由が「都会ではなく、自然の中で仕事をしたい」ということ。食べ終えて幸せに包まれる料理に環境が重要なのは言うまでもない。

前日の仕込みから毎日の仕入れのチェック、ひいては営業前の準備、ディナー、片づけまですべて一人きりで。頑張れ、金山シェフ!

2015年2月、金山シェフ自身がお客に接して料理をつくる「シェフズターブル」をスタートさせた。その後レストラン名を「ベルス」に改名して、一人シェフレストランになった。

団体戦のホテル総料理長と、個人戦で実力を発揮する職人シェフ。金山シェフは正反対に見える仕事を一人で成し遂げている。焦らず、自分のペースを見つけ、両輪で走れるようになるのだ。

おまかせコースはゲストもシェフも未知の世界

鰤/シャンピニオン/春菊
太平洋側のブリは春から初夏に脂がのる。その皮目をしっかりと焼き、身はふっくらジューシーに。薄くスライスしたシャンピニオン、春菊とともに飾る。ブイヨンを注いでテーブルへ

金山シェフの料理を楽しめるプライベートレストラン「ベルス」はディナーのみの営業。1日2〜3組、ホテルの宿泊者以外でも3日前までに予約があればテーブルにつくことができる。コースは7〜10品ほどで1万8000円(税・サービス料別)。

メニューの内容は基本的にシェフにお任せ。「もちろん、苦手な素材はおうかがいして外します。その上でだいたい何を使うかは決めていますが、素材を見て変更するのはいつものこと」。日々、朝一番に届いた素材をチェックする。大当たりのときもあれば、思い通りの状態でないこともある。

クルジェット/パルマハム/ノワゼット
クルジェット(ズッキーニ)をスライスしてミルフィーユのように重ねサラダ仕立てに。パルマ産の生ハムの塩味とノワゼットの香ばしさ、甘みがちょうどいい。3種の素材の組み合わせが意外

コースがはじまってからも、油断はできない。ゲストの一人の食が進まない、テーブルに活気がないなどの状況を察すれば「酸味のすっきりした味つけに変更して、食べやすくします」。つまりシェフはレストランにおける医者でもある。“ゲストの食事の進み方を見ながら自由に変更できる”。これこそが一人シェフならではのメリットだという。

「周辺の標高は700mで、冬は雪も降ります。畑をもつには厳しい環境です。それでもホテルの一角にハーブガーデンを設け、花や葉っぱをちょっとアクセントに使用できるようにしています」。盛りつけに、本物の花を添える。ミニガーデンは金山シェフの“秘密の花園”だ。

赤座海老/白アスパラ/キャビア
ゆでた赤座海老に同じくゆでた白アスパラはそれだけで甘みと苦みが特徴的。これに燻製キャビアとイタリア産チーズの塩味と香りを組み合わせることで旨みに変身!(素材:赤座海老、白アスパラ、燻製キャビア、伊産チーズ)

さらに金山氏がこの4年間でコツコツ進めてきたのが、素材の生産者とのコミュニケーションだ。休日には、焼津から三浦半島まで、広い範囲で魚、肉、野菜の生産者や、卸売店を訪ねる。

そんな生産者の一人、富士宮市の長谷川農産ではジャンボマッシュルームを育てている。暗いビニールハウスの中に、白いピンポンボールのようなマッシュルームがモコモコと育っている。その神秘的な香りを感じるために、わざわざ足を運ぶ。

鳩/ビーツ/牛蒡
ニンニクのピューレを添えたフランス産のラカン鳩のロースト。きれいなロゼにローストされた鳩と、鮮やかなピンクのビーツのソース(バルサミコが甘酸っぱい)と揚げたゴボウは黄金のトライアングル

「ベルス」も5年目に入り、シェフはますます大胆になっている。料理の一部始終を自分でコントロールできるという楽しさと、自信に満ちあふれているからだと思う。

皿の中に3つの要素を入れることが多いという金山シェフ。「アストランス」、「ル・ブリストル」といった三ツ星での経験をベースに、パリのビストロノミーの洒脱さを加え、日本の素材を盛り込んだ金山キュイジーヌは完成の域に入っているように思える。

このスタイルは、もしかしたら、東京で行き詰まっている料理人にとって、大きなヒントになるのではないだろうか。実力、体力、能力を120%出し切ること。金山シェフのようにチャレンジし続ければ誰でもまだまだやるべきことが見つかるのではないだろうか!

レストランベルス(れすとらんべるす)
住所:神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320 ハイアット リージェンシー 箱根 リゾート&スパ
Tel:0460-82-2000
営業時間:18:30〜22:30(L.O.20:00)
定休日:不定休
料金:コース1万8000円(税・サ別) ※完全予約制

文=犬養裕美子 写真=前田宗晃

2019年6月号 特集「天皇と元号から日本再入門」


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