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「山地陽介」皿の中に物語を紡ぐ、祇園のフレンチレストラン【後編】
犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン

2019.5.30
「山地陽介」皿の中に物語を紡ぐ、祇園のフレンチレストラン【後編】<br><small>犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン</small>

いまはまだスタートをしたばかり、それほど有名ではないけれど、私イチオシの“期待の星”を探して、ニッポンをめぐります!今回は、京都府京都市にあるフレンチレストラン「山地陽介」を前後編記事でご紹介します。

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フランス料理の枠を越えて
日本の食文化を表現する

山地シェフの皿の中には物語がある。たとえばメインの肉料理は落ち葉が積もった森の中を、きのこや葉っぱをかき分けかき分け食べ進むイメージ。すると突然赤すぐりの実の甘酸っぱい味が口に広がる。皿の上に見えている部分はほんの入り口。何か探し物をするように進むと、その先に別の風景が広がる。こんなにワクワクする料理はそうあるものではなかった。あのままパリにいれば間違いなく日本人シェフの中でも特別な存在になると思ったが、山地氏はすでにそのとき、目標を京都に定めていた。せっかく日本に戻っても“京都”に取られる……とは、東京にいる身としては少し悔しい。しかし彼は京都だから日本に戻ってきたのだ。

「京都には日本料理の最高峰が集まっています。そうした店を日頃から利用しているお客さまが、うちの店にいらっしゃいます。求められているのは上質な素材を使った、本物の料理です。流行の料理とは違います」。春はタケノコ、夏はハモ、秋は松茸、冬はフグ。旬の時期になると四季折々の素材をどこの店でも扱う。フランス料理とはいえ、山地氏は旬の素材をきちんと手に入れてその美味しさを最大限に引き出す。

「『京都吉兆』で修業してきたスタッフがいるので、今年の夏はハモも出しました。秋の松茸も考えています」。実はマネージャーの前川氏も京都吉兆の出身。料理に合わせてワインはもちろん、日本酒も提案してくれる。その感覚はとても自然で無理がない。

テーブルについても献立はわからないし、皿が置かれるまでメニューはわからない。しかも出てきた料理にも特別名前はつけていない。どんな素材が使われているかを説明する程度。あとは食べてのお楽しみ。口の中で味わいが広がり、日本の素材がフランス料理に変化していく。「クオリティの高い素材を手に入れることもガストロノミーレストランの基本」と考えるシェフは「京都 中勢以」の熟成肉や、奄美大島のセミエビにフォワグラと黒トリュフという思い切った組み合わせも、恐れることなく皿にのせる。

3年目に入ったこの夏の料理はいずれも、皿の上に「山地陽介」らしさが表現されている。そのスタイルのひとつがうつわだ。涼しげな「スガワラ」のうつわはシンプルな料理に透明感を与えてくれる。ブルーのうつわは、海辺を想い起こさせる。

「サービスを含め至らないところばかりですが、じっくりとりくんでいきます」。料理だけではない、お茶も、花も……。何よりもてなしの心をどう表現するのか。その先が楽しみだ。

山地陽介
夜のコース全皿紹介

献立はなく、料理の名前もないコース。季節の素材をテーマに10皿(一皿は前編で紹介した「京都 中勢以の熟成肉」)。以下は1万5000円(税・サ別)。

タコとメロン

タコは赤ワイン、ミルポワ、香辛料、レモンライムでマリネ。すっきりした塩味と京都丹後産赤肉メロンの甘みがよく合う。オレンジの皮、柚子のジュース、レモンジュースに生クリームとリコッタチーズを混ぜたクリームが全体をまとめる。うつわは「スガワラ」。

鰻、トマト、ウニ、ナス、タラバガニ

ローストしたナスの上にトマトとポルト酒のソースで炙った鰻、6Lの身をほぐした大きなタラバガニの上に淡路産のウニ、下にフォワグラのプードル(粉末)。夏に美味しい素材を一同に集めたインパクトのある皿。注文して届いたばかりの萩焼のうつわも涼しげ。

ハモ、鶏節

和食の経験者が加わり、今年からハモも使うことに。ハモは錦市場の「丸弥太」から仕入れる。「コースの中にお椀的な汁物を入れると京都の方はホッとされます」。鶏節と昆布で引いただしにパセリのピューレ、香りはレモンとライムを少し。フレンチ版ハモのお椀。

チーズ盛り合わせ

コンテ18ヵ月、トム・クラユ—ズ、トム・ド・サヴォワ、ブリー・ド・モー、ブルー・ドーヴェルニュ。これにラムレーズン、マイクロトマト、パパイヤの塩漬け、ルバーブのコンフィチュールを添えて。ほんのひと口のチーズで食事がぐっと引き締まる。

セミエビ、フォワグラ、京都 中勢以の牛ほほ肉、トリュフ

奄美大島で捕れるセミエビを大胆に使った料理。甘みと旨みの強い素材に負けないフレンチの旨み(フォワグラのテリーヌ、トリュフ)。さらに赤ワインで煮込んだ熟成肉のほほ肉とオレンジのマーマレードや奈良漬け、塩キャラメルのアクセント、上には粒コショウ。

アユ、ズッキーニ、トマト、アオリイカ

滋賀県安倍川の鮎。米粉をつけて軽く揚げる。奄美大島のイカはオリーブオイル、鷹の爪、タイム、ローズマリー、七味唐辛子などでマリネしてピリ辛味に。トマトのコンフィ、香ばしいアーモンドもよく合う。アユのほろりとした身と苦い内蔵の香りがイカにも有効。

パッションフルーツ、アイスクリーム

アヴァンデセールは奄美大島のパッションフルーツに、黒糖カステラのアイスクリーム。弾けるような酸味と香りのパッションフルーツには、同じく南国のコクのある味わい、黒糖を使ったカステラのアイスクリームをいっしょに。お腹一杯でもこれならすっきり入る。

グランデセール

シャインマスカット、宮崎マンゴー、和歌山の桃、アーモンドのブランマンジェ、クレーム・ドゥ・シトロン、グラノラ、イチゴのマーマレード、自家製練乳、清見オレンジシャーベット、柚子とホワイトチョコレートのメレンゲなどなど。最後の大フィナーレ!

自家製焼きたてフィナンシェ

山地シェフがどうしても実現したかった、焼きたてのお菓子。発酵バターをたっぷりと使ったフィナンシェは、外側はカリカリ、中はしっとりとしたリッチな焼き菓子。食事を終えてゆっくりした頃に焼き上がるように仕込む。スタッフが充実してようやく実現。

山地陽介
住所|京都府京都市東山区祇園町南側570-151
Tel|075-561-8001
営業時間|
12:00〜13:00(L.O.)、18:00〜19:30(L.O.)

定休日|月曜(月2回不定休)
料金|昼:5000円、8000円

夜:1万円、1万5000円、2万円(すべて税・サ別)
www.yosukeyamaji.com

text:Yumiko Inukai photo:Muneaki Maeda
Discover Japan 2017年10月号『京都の誘惑。』


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