INFORMATION

建築家・吉田愛さん、谷尻誠さん
愛着を深める多拠点づくり【前編】

2022.4.19
<small>建築家・吉田愛さん、谷尻誠さん</small><br>愛着を深める多拠点づくり【前編】

10年以上前から、すでに広島~東京間を行き来していたSUPPOSE DESIGN OFFICEの吉田愛さんと谷尻誠さん。クリエイティブな発想を生み出すために多拠点生活は欠かせないと語るお二人に、いま、気になる拠点を教えてもらった。

吉田 愛さん
建築家。1974年、広島県生まれ。2001年SUPPOSE DESIGN OFFICEに参画。2014年より共同主宰。2017年「絶景不動産」、2021年、新たに空間プロデュースなどを事業の核とする「etc inc.」を設立。自社事業の運営とともに、建築を軸とした活動をしている

谷尻 誠さん
建築家・起業家。1974年、広島県生まれ。2000年SUPPOSE DESIGN OFFICEを設立。広島・東京の2カ所を拠点に国内外合わせ多数のプロジェクトを手掛ける。近年「絶景不動産」、「tecture」、「DAICHI」など多分野で開業。事業と設計をブリッジさせて活動している/span>

裏山の緑がこの物件の魅力。見事な借景を生かすために、通常室内の壁は白色にするところをグレーに統一。インテリアをダークトーンにまとめることで緑が美しく見える

東京・渋谷⇔神奈川・鎌倉⇔広島
拠点はすべて好奇心を実現するアトリエ

鎌倉駅から車で10分。山間の住宅地に「鎌倉はなれ」はある。現在、吉田愛さんが週末を過ごしている第2の拠点だ。「実は、もともと鎌倉にはあまり来たことがなかったのです……」と、意外な返答をする吉田さん。しかし2年ほど前、仕事で何度か訪れるうちに街の魅力に引き込まれていったという。

「鎌倉には海や山だけでなく、文化もしっかり根づいている。こんなすてきな場所で過ごせたらいいなと思い、拠点づくりを考えるようになりました」

ちょうどその頃、設計事務所だけでなく「絶景不動産」という不動産業をはじめた時期でもあったため、空間は前者でつくり、運営は後者で行うという、新事業のモデルケースとして、試験的にゲストハウスをつくることになった。そこで出合ったのが築50年の日本家屋だった。

「裏山の緑が魅力的な物件でした。そこで、借景を生かしたゲストハウスに改修することにしたのです」

室内に天井照明は設置せず、必要な明かりは間接照明やキャンドルで賄う。夜は周辺が真っ暗になるため、非日常感を楽しむことができる
今年の冬に導入した「FIREGRAPHIX」の薪ストーブ。アウトドア用なので縁側でバーベキューをするときにも重宝しそう
かつて玄関の靴入れだった部分を薪入れスペースにリノベーション。吉田さんのお気に入りコーナーのひとつ

室内の壁はあえてダークグレーを採用。照明も極力控えることで、庭先の自然が引き立つ非日常空間に生まれ変わった。当初は2019年4月にオープンする予定だったが、コロナ禍の影響で運営を先延ばしにすることに。同時に、実際に住み心地を確かめる必要があると感じ、2020年から本格的に週末をはなれで過ごすことにした。

「実際に住んでみると、近隣に私と同じように移住して来られた方もいて、いまはご近所づき合いを楽しんでいます。おばあちゃんのお友達もできて、庭のお手入れ法などアドバイスをいただいています。ここでは手つかずの自然や光、寒さも体感することができ、本当の豊かさに気づかされました」

単に仕事をするだけならどんな場所でもいい。ただ、もっとクリエイティブに物事を考えるためには環境も大切。外部の刺激がヒントになるからだ。「私にとって『鎌倉はなれ』はアトリエのような場所です」。そう言って、吉田さんは庭先の草木にほほ笑んだ。

「庭で採れた梅と金柑はシロップ漬けに。ソーダで割って飲むなど、オリジナルドリンクづくりも楽しいです」

「鎌倉にある古いものと共存する意識が
魅力的なんです」

2階に続く階段。以前はらせん状だったが、キッチンのスペースをできるだけ広く保つために、急勾配の階段に縮小。狭小住宅でよく使う建築技術を活用している
1階にある和室は手を加えず、リノベーションする前のしつらえをそのまま残している。畳の温もりが感じられるように、低めのテーブルのみを配置。凛とした佇まいが新鮮
浴室も全面グレーの壁を採用。窓は日本家屋のときに付いていたものをそのまま使用。夜、明かりをつけずに入浴すると、窓から月の光だけが差し込み、贅沢な気分が味わえる

4LDF・2階建ての日本家屋を改装
築50年の日本家屋をゲストハウスとしてリノベーション。1階は庭につながるリビングと和室、ベッドルームの3部屋。2階は現在倉庫として活用している小さな部屋がふたつある

<鎌倉はなれでのタイムスケジュール>
6:00~7:00  起床・朝食
7:00~9:00  庭の手入れ、その日のto do整理、情報収集・発信、文章執筆
9:00~13:00  Zoom打ち合わせ、メールチェック・デザイン検討など
13:00~14:00 昼食
14:00~20:00 仕事
20:00~23:00 夕食、自分の時間
24:00     就寝

 

≫次の記事を読む

 

text: Misa Hasebe photo: Kazuya Hayashi, Shingo Nitta
Discover Japan 2022年3月号「第2の地元のつくり方」

広島のオススメ記事

関連するテーマの人気記事