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ローカル線の旅で日本を再発見。
六角精児さんの列車と車窓と酒と

2019.9.3
<b>ローカル線の旅で日本を再発見。</b><br>六角精児さんの列車と車窓と酒と

鉄道とお酒と練りものがあれば幸せ。ほろ酔い気分で電車に揺られ、日本の懐かしい情景を慈しむ。全国津々浦々のローカル線に揺られ車内で一杯いただくのが至福の時間。そんな六角さんが語る「呑み鉄」の旅。全2回の《六角精児さんの列車と車窓と酒と》前編。

六角精児(ろっかく・せいじ)
俳優。1962年、兵庫生まれ。代表作は『相棒』、『電車男』など。『六角精児の呑み鉄本線・日本旅』がNHK BSプレミアムで放映中。9月14~29日に舞台『怪人と探偵』(KAAT神奈川芸術劇場)に出演。

鉄道写真を撮影する「撮り鉄」、車両を研究する「車両鉄」、乗ることが好きな「乗り鉄」、音にこだわる「音鉄」など、鉄道への愛のかたちは人それぞれ。僕の場合は「呑み鉄」。全国津々浦々のローカル線に乗り、美味しいお酒を楽しんでいます。

以前はプライベートで呑み鉄の旅に出ることが多かったですが、鉄道好きとして知られてきたいまは、仕事で乗ることがほとんどになりました。僕はコアな鉄道ファンというより旅の移動手段としての鉄道が好き。そこにお酒が加わることで、車窓から見える景色がほんのり色づく。その感覚が好きです。

日本は狭いようでとても広く、地方それぞれに異なる色合いがある。それを見るのは僕のライフワーク。訪ねた先の昔から変わらない風景や長く続く文化、そして何よりお酒やご飯を味わい、日本を再発見する。そう。この雑誌のタイトル『Discover Japan』は、まさに僕のテーマそのものなんです。

鉄道好きになって20年。全国のJRと第三セクターの路線はだいたい乗りました。おすすめは山ほどありますが、宗谷本線、五能線、三陸鉄道リアス線、只見線、芸備線、琴平電鉄、阿佐海岸鉄道、日南線あたりでしょうか。

宗谷本線は、北海道の雄大な大自然を味わえる路線です。日本の最北端へと向かう旅情感は独特。止まる駅はほとんどが無人駅で、車掌車を改造して駅舎にした「貸車駅」が多くあります。特に名寄から先は秘境駅が多く、一つひとつが本当に駅なのかすら、よくわからない。そんな、最果ての地をゆく寂寞感を味わえます。

五能線は秋田県能代市と青森県南津軽郡を結ぶ路線ですが、日本海や津軽海峡、そして白神山地と、景色のバリエーションが魅力。東北にこういう路線はなかなかない。乗り換えせず全区間を走る列車は1日1本だけですが、「リゾートしらかみ」という観光列車が運転されているのでおすすめ。この沿線に有名な「黄金崎不老ふ死温泉」があるのですが、そこで食べたアワビの漬け物が旨かった。残念ながらいまはもう一般販売していないようですが……。そして、その隣にある「みちのく温泉」もいいですよ。

東北で外せないのが三陸鉄道リアス線。この3月に、東日本大震災で不通となっていたJR東日本山田線の宮古ー釜石間を組み込んで全線開通しました。まだ全線を通しで乗ったことはないので、今度ぜひ走破したいです。何せ第三セクターでは日本最長の路線でトータル約4時間半。気持ちよく飲んでいたらベロベロに酔ってしまうので、セーブしないと。

それと、個人的にも歌をつくったりして応援している只見線。この路線では、春から夏にかけては新緑、秋は紅葉。冬には圧倒的な雪景色が見られます。日本の四季折々の彩りをすべて体験できる路線です。田園風景が徐々に里山の風景へと変化し、只見川の水流を眺めると、そこには日本の河川の美しさがある。そして山深くなり、見えるのは里山の原風景。昔の日本はきっとこんな感じだったんだろうな、という景色です。最後は厳しい谷の中を走って、新潟方面へ向かいます。日本のよさがぎっしりと詰まっている路線なので、ぜひ、たくさんの方に乗っていただきたいです。

芸備線は岡山の備中神代から広島県の三次駅まで走る路線ですが、ここは正直、上級者向け。特に備中神代から三次までの区間の本数が極端に少なく、かなり大変。雰囲気はまさに秘境で、僕は「日本のアルプス鉄道」と勝手に呼んでいます。「途中にちょっと寄って乗ってみよう」みたいな、軽い気持ちでは無理。芸備線に乗ろうと決めないと、かなり厳しいです。

四国は琴平電鉄と阿佐海岸鉄道。琴平電鉄は懐かしい京浜急行の旧1000形や600形などの古い車両を使っていて、鉄道好きにはうれしい路線です。そして阿佐海岸鉄道。ここもマニア向けですね。いわゆる盲腸線で、駅は海部、宍喰、甲浦の3つだけ。僕は以前、これに乗るためだけに1泊かけて行きました。ちなみに宍喰駅に「伊勢エビ駅長」とやらがいるそうですが、途中下車する時間がなくて見られませんでした。

九州では日南線。宮崎を出るとフェニックスの木がたくさん見えて、その後は日向灘沿いを走っていく。日南線は、日本の「南国感」を最も楽しめる路線でしょう。中でもおもしろいのが幸島。無人島なんですがたくさんの猿が住みついていて、興味深いです。

文=前田成彦 イラスト=藤原徹司(テッポー・デジャイン。)
2019年9月号 特集「夢のニッポンのりもの旅」

《六角精児さんの列車と車窓と酒と》
1|ローカル線で日本を再発見
2|鉄道旅だけにある「連れていかれる」旅情

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