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日本酒をおもしろくする麹菌の働き

2018.12.12
日本酒をおもしろくする麹菌の働き

菌などの微生物が複雑に働く日本酒特有の「発酵」について、現在、47都道府県の発酵をめぐる旅に出ているという、発酵デザイナー・小倉ヒラクさんに解説していただきました。

発酵デザイナー・小倉ヒラクさん
発酵醸造メーカーのアートディレクションなどを手掛けるうち、微生物学の世界へ。東京農業大学醸造学科の研究生を経て現在は微生物の研究者とデザイナーの二足のわらじを履く。

そもそも発酵とは?麹の生み出すマジック

発酵とは「人間に役立つ菌が働くプロセス」のこと。日本酒の場合でいえば、米にコウジカビが付いて本来米の中には存在しない糖分をつくり出し、さらにその糖分に酵母という別の菌が付いてアルコールをつくり出す。家畜のように人間になついて役立つことをしてくれる微生物=発酵菌がお米と水というシンプル極まりない原料から複雑な味わいの日本酒をつくり出してしまう。日本酒を愛でるということは、発酵及び微生物を愛でるということなんだね。

日本酒特有の麹マジック

同じようなアルコール度数の食中酒であるワインと日本酒を比べてみたときにポイントになるのが麹の存在。ブドウジュースをシンプルに酵母でアルコールに変えるワインと違い、日本酒の場合、麹を発酵のスターターとすることでワインにはない風味が酒に付与される。その風味のキーとなるのが「旨み」。麹には酵母のエサとなるブドウ糖とは別に、お味噌のような旨みが含まれる。この旨みをどのように扱うかによって、日本酒における無限の味のバリエーションを生み出すことができる。これがアナタを日本酒という名の沼に引き込む麹マジック……!

黄麹菌を第一線で研究する岩下さん(右)の話に、小倉さん(左)も質問が尽きない。

たとえばお米の表面を削ることでタンパク質を取り除き、コウジカビを厳しくしつけて繁殖させていくと、まるでブドウのような「雑味のないピュアな糖分の結晶としての麹」が出来上がる。この麹で酒を醸すと食べ物っぽい感じが排除された、飲み口のよい、ラグジュアリーに透き通った酒ができる。対してお米の栄養分をきちんとキープし、コウジカビを醤油や味噌をつくるときのように力強く繁殖させていくと「糖分以外の栄養素がぎっしり詰まった麹」になる。この麹で酒を仕込むとだな、酒の専門家っぽく言えばボディのしっかりした味わいの濃い酒、僕なりの表現で言えば「おにぎりっぽい酒」になるんだよ。前者のピュアさを目指すか後者のおにぎりっぽさを目指すか、当然ながら正解はなくて醸造家の美学とアナタの好み次第。今宵も麹マジックに酔いしれるべし……!

時代は米とコウジカビのフリースタイルへ!

ひと昔前までは、日本酒の味の幅は主に酵母の種類や扱いによって規定されていたが、最近は米と麹の新たな組み合わせによる味のバリエーションの拡張がトレンド。たとえば山田錦のように一般に扱いやすいとされる米ではなく、その土地の、しかも完全無農薬のパワフルなローカル米を使うと、麹のつくり方も教科書的なセオリーを外す必要が出てくる(米が溶けなかったりとか)。鍵と鍵穴のごとく、米と菌の力の釣り合いが取れるベストバランスが見つかると、旨みも酸味も甘みも兼ね備えているくせに飲み口も最高! 的な夢のような酒が出来上がる可能性もあるのだよ。

(text:Hiraku Ogura)
※この記事は2018年12月6日に発売したDiscover Japan1月号(P64~65)の記事を一部抜粋して掲載しています