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【コラム】日本酒好き編集部員が選ぶ今月の一本
9月「無窮天穏 齋蔵」

2019.9.1
【コラム】<b>日本酒好き編集部員が選ぶ今月の一本</b></br>9月「無窮天穏 齋蔵」
“無類の日本酒好き”な編集部員・イッペイが、月イチでおすすめの日本酒を紹介するコラム。フェイスブックのみで公開していましたが、好評のため今回からウェブに昇格。日本酒好きな人も、もっと日本酒を知りたい! という人も、ややマニアック(?)な本コラムで日本酒の新たな魅力を発見しよう。

9月「酒の神さまのために」

今月紹介させていただくのは、島根・出雲市にある板倉酒造の「無窮天穏 齋蔵(むきゅうてんおん さくら)」です。大層なタイトルを付けましたが、商品名や見た目からただならぬ空気を感じませんか? 普段お邪魔させていただく酒販店の奥に陳列されていたんですが、こんなの逆に目立ちますよね。酒が放つオーラに見惚れて、酒造名もラベル裏も、何も見ずに買ってしまいました。

いざ調べてみると、神話の国といわれる島根・出雲の地で、明治4年から続く酒蔵で、主力銘柄は「天穏」。大正5年に、日蓮宗の経文から抜粋して命名された由緒ある酒です。板倉酒造のモットーは、「味と香りに生きる手造りの酒」。酒造好適米は、五百万石や神の舞、佐香錦など島根県産米、兵庫県山田錦米を使用しています。

こんなこと書かれてもまったく想像できないですよね。僕もよくわかりません。一番注目してほしいキーワードは、商品名の由来でも酒米へのこだわりでもありません。
ここでヒント。日本三大酒神神社として知られる奈良・大神神社と、京都・梅宮神社、松尾大社。ちなみに出雲の神社仏閣といえば、出雲大社が知られていますが、車で30分ほどの距離に佐香神社があり、別名「松尾神社」と呼ばれています。

ピンときたあなた。そうです。キーワードは「神さま」。佐香神社に祀られている久斯之神(クスノカミ)は、出雲大社に集まる八百万の神さまに酒を振る舞った伝説があり、日本酒発祥の地ともいわれています。酒造りの神さまとして信仰を集める「松尾様」の名をいただく神社は少なくないですが、京都の松尾大社を含めたこの二社だけが、国から1年1石(一升瓶100本)の酒造免許を受けているのだとか。タイトルに近づいてきたね。

そんな酒の神さまが見守る中で造られているのが、無窮天穏シリーズの齋蔵。無窮天穏とは、天が穏やかであれば窮する(困る)ことはないという言葉で、まるで何かに見守られているような穏やかな気持ちになれる酒質を目指しているんです。

そして齋蔵。「齋」は清らかな、神を表す言葉。「蔵」は降りる場所、留まり鎮座する場所。御神酒を授かる酒蔵であるようにと願い造られたのが、この齋蔵なのです。さらに! ラベルに使用されているのは、斐伊川真菰(ひいかわまこも)和紙という特別なもの。原料を自家栽培し、人の手で洗練した和紙には神が宿り、田んぼの水や空間を浄化する作用があるといわれています。

日本酒発祥の地で、松尾様に見守られ、無窮天穏の名の下に、斐伊川真菰和紙が重なり完成する「無窮天穏 齋蔵」。じんわりと、早く飲みたい衝動にかられているんじゃないでしょうか。もう十分ですよね。

では、そろそろ味の感想を……。

最初びっくりしたのは、ザラメのような香りが鼻に抜けたこと。口に含むと、ムースのような、麹のふくよかな甘みがじんわりと沁みてくるんです。舌に当たる感覚は、なめらかなんだけど、ざらつきというか苦みを感じる瞬間も。一瞬、焦がしカラメルの生プリンを食べたような感覚に陥りました。少し時間をおいてグラスを回すと、やっと吟醸香が感じられ、梨や白桃を思わせる風味に変化していきました。35〜40度くらいの人肌燗が幸せになれるかもしれない。そういえば生酛造りで、純米大吟醸なんて(多分)はじめて飲みました。

いま、僕が原稿を書いている場所は新幹線の中。車内で四号瓶空けて、RIEDELの大吟醸グラスで飲んでるだけでも視線がいたいのに、ペアリングなんてできるはずもなく、今月はこれにておしまい。

文=編集部イッペイ